この五・七・五音より、一句に含まれる音の数が多くなることを「字余り」と言います。
次の俳句は私の自信作です。
杖置いて朝凪の海拝みけり (凡茶)
この句を、五・七・五の定型ではなく、あえて六・七・五や、五・八・五で表現してみます。
【六・七・五】 杖を置いて/朝凪の海/拝みけり
【五・八・五】 杖置いて/朝凪の海を/拝みけり
口に出して読んでみると、随分、リズムが悪くなったとわかります。
俳句は散文ではなく、韻文です。
リズムが悪くては、俳句ではありません。
古くから和歌などの韻文で用いられてきた五七五音は、耳にすんなり入ってくる美しい調べを持っています。
この調べを、安易に壊してはなりません。
ですから、字余りはできるだけ避けるようにしましょう。
私も初心の頃は、一句に言いたいことをいろいろ詰め込もうとして、字余りの句を作ってしまうことがありましたが、結局気に入らず、捨てることになりました。
ただし、字余りの俳句が全て悪いというわけではありません。
五七五音の定型を守った俳句を読むように、自然に、心地よいリズムで読むことができれば字余りも気になりません。
次の私の俳句を読んでみてください。
缶コーヒーポケットに挿し鮪糶る (凡茶)
次に示すように、この俳句は六・七・五音の字余りですが、読んでみて耳障りにはなっていないと思います。
かんこーひー(六音)/ぽけっとにさし(七音)/まぐろせる(五音)
なぜこの句は、字余りなのに、すんなりと耳に入ってくるのでしょうか?
一つは、字余りの上五、いや上六において、軽く息をつぐ場所が、定型を守っている句と同じだからだと思います。
つまり、軽く息をつぐ場所を「◆」であらわすと、上の句の「杖置いて」と、この句の「缶コーヒー」とでは、同じ場所に「◆」が入ります。
つえ◆おい◆て
かん◆こー◆ひー
この「缶コーヒー」の句の字余りが気にならないもう一つの理由は、缶コーヒーという単語が、「ん」という「はねる音」(撥音)と、「ー」という「のばす音」(長音)を含んでいて、それ自体で心地よいリズムを持っているからだと思われます。
長音に似た「ふう」と、撥音「せん」を含む次の俳句も、五・七・六の字余りが、それほど気にならないと思います。
海風を入れて転がす紙風船 (凡茶)
とにかく、字余りの俳句ができた場合は、それが定型と変わらない心地良い調べを持っているのか否か、何度も句を声に出して読み、確かめてみましょう。
それで字余りが気にならなければいいですが、やはり聞き心地が悪い場合は、定型を守る方向で句を直す必要があると思います。
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さて、俳句には、読者の心に響く美しい形というものがいくつか存在します。
例えば、次の名句は、いずれも中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形をしています。
●凩(こがらし)の果(はて)はありけり海の音(言水)
●ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道(中村草田男)
また、次の名句は、いずれも名詞で上五の後ろを切り、句末は活用語の終止形で結ぶ形をしています。
●芋の露連山影を正しうす(飯田蛇笏)
●秋の暮大魚の骨を海が引く(西東三鬼)
筆者(凡茶)も、名句の鑑賞を通じて、このような美しい俳句の形を使いこなせるようになることで、次のような自信作を詠むことができました。
●糸取りの祖母逝きにけり雪解雨(凡茶)
●露の玉工場ドスンと始まりぬ(凡茶)
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