「かな」 〜代表的な俳句の切れ字A〜

 切れ・切れ字のページで、「」「かな」「けり」の三語は、特に強く詠嘆の意が込められる切れ字の代表格であると述べました。
 このページでは、その三つの切字のうち、「かな」の用い方や効果について説明します。

 なお、古句には「かな」を漢字で「」と表記している作品が多いのですが、初心者向けの当サイトでは、わかりやすさのため、例句の「かな」を全て平仮名に直して掲載してあります。

一.俳句のどこに「かな」を置くべきか?

 「かな」は句末、すなわち一句の一番最後に置くのが原則です。

 「かな」という切字を用いると、切れの直後に余韻が生まれ、その余韻はすぐさま大きく膨れ上がります。

 ですから、その大いなる余韻の後ろに何らかの言葉を続かせても、「かな」の前に置いた言葉と一体感が生まれず、まとまりのない一句になってしまうのです。

 以下の名句においても、「かな」は、句の一番最後に置かれています。

  さまざまの事おもひ出す桜かな (松尾芭蕉)

  野ざらしを心に風のしむ身かな (松尾芭蕉)

  石工の鑿冷したる清水かな (与謝蕪村)
      石工=いしきり。  鑿=のみ。

  うら門のひてりでに明く日永かな (小林一茶)
      明く=開く。

  どかどかと花の上なる馬ふんかな (小林一茶)

 「かな」を上五や中七に置く例外的な俳句も有るには有るのですが、初心者には、句末に「かな」を置く作り方を、しっかりとマスターしてほしいと思います。

  嘘一行文に書き足す炬燵かな (凡茶)
      炬燵=こたつ。

二.どのような語の後ろに「かな」を付けられるか?

 「かな」は名詞、または活用語(動詞・形容詞・形容動詞・助動詞)の連体形の後ろに置きます。
 俳句においては、特に名詞に付くことが圧倒的に多いので、初心者は、まずは名詞に「かな」をつける練習をしてください。

■ 名詞(赤字)の後ろに「かな」を置いた俳句の例

  村の灯へ舟遠ざかる浮巣かな (凡茶)

  アイヌ地名散らばる陸奥の銀河かな (凡茶)
      陸奥=むつ。東北地方のこと。

  定期船明日より減る時雨かな (凡茶)

 名詞の後ろに「かな」を置くことに慣れてきたら、活用語の連体形に「かな」を付ける練習に移りましょう。
 以下の名句が参考になると思います。

■ 動詞の連体形(赤字)の後ろに「かな」を置いた俳句の例

  鮟鱇もわが身の業も煮ゆるかな (久保田万太郎)
      鮟鱇=あんこう。 業=ごう。

  牡丹雪その夜の妻のにほふかな (石田波郷)

■ 形容詞の連体形(赤字)の後ろに「かな」を置いた俳句の例

  冬の月寂莫として高きかな (日野草城)
      寂寞=せきばく。

  初富士のかなしきまでに遠きかな (山口青邨)

 なお、稀にですが、名詞や活用語の連体形以外の言葉にも、「かな」が付くことがあります。
 例えば、次の蕪村の名句の場合、動詞「愛す」の終止形の後ろに「かな」が置かれています。

  二もとの梅に遅速を愛すかな (与謝蕪村)

 文法は人々に言葉の用い方を強制するものではなく、人々が用いてきた言葉の中から後の人が発見した秩序、あるいは傾向にすぎません。
 ですから、文法の教科書とは異なるこうした例外があるのは、ごく当たり前のことなのです。

 ただし、初心者は、「“かな”は名詞、または活用語(動詞・形容詞・形容動詞・助動詞)の連体形の後ろに置くもの」という基本を、まずはしっかりと身につけるべきでしょう。


三.切れ字「かな」を用いて得られる効果

 切れ字の「かな」は、その直後にジワーッとした余韻を醸し出し、それを大きく、かつ、やんわりと膨らませます。
 例えば、次の句を見てください。

  さまざまの事おもひ出す桜かな (松尾芭蕉)

 この句を読み終えると、胸に沁み込んでくるような優しい余韻を感じませんか。

 雲のように咲き誇る桜の花、その控え目な色、霞のかかった空、さまざまな事を乗り越えて来た人物の慈悲と憂い…
 そんなイメージが渾然一体となって、やんわりと頭の中に膨らんできませんか。

 この余韻の膨らみこそが、切れ字「かな」の生み出す最大の効果であると思います。
 もし、上の芭蕉の名句から、「かな」を取り払ってしまったらどうなるでしょう。

  桜見てさまざまの事おもひ出す
 
 一句を読み終えた後の余韻が、あまり膨らむことなく、消えていくのがわかると思います。

 もう一句例を見てみましょう。

  嘘一行文に書き足す炬燵かな (凡茶)

 この句と、この句から「かな」を取り去った次の句を比較してみて下さい。

  炬燵にて文に書き足す嘘一行

 どちらの句が、炬燵の温もり、静かに流れる時間、人物の心の落ち着き等のイメージを膨らませてくれるかは、明らかであると思います。

 見てきた通り、切れ字「かな」は、味わい深く、かつ、柔らかい余韻を俳句に与える最高の道具です。
 
 初学の頃から積極的に用いて、自分の俳句をより豊かなものにして下さい。



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俳句がどんどん湧いてくる100の発想法

俳句発想法 100の季語

俳句名人になりきり100の発想法






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posted by 凡茶 at 06:56 | Comment(0) | 俳句における切れ字の使い方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする