このうち、「や」は上五で、「かな」「けり」は座五(句末)で用いることが多いため、初心者の頃は、次のような「や・かな」を併用した俳句、「や・けり」を併用した俳句を作ってしまいがちです。
@ 睡蓮や雨を喜ぶ少女かな
睡蓮=スイレン。池や沼の面に赤や白の花を咲かせる。
A 木登りやヨットの恋を眺めけり
このような俳句の作り方は、出来るだけ避けるようにしてください。
「や」「かな」「けり」は、用いたその直後に余韻を生み出します。
俳人は、「や」「かな」「けり」で俳句が切れると、その切れた部分に生じる独特の余韻を楽しむのです。
しかし、17字の短い俳句の中に、「や」「かな」「けり」のような強い切れ字が2つもあると、余韻を味わうべき部分が2か所に分散してしまい、結局どちらも満喫できなくなってしまうのです。
したがって、もし上の@Aのような俳句が出来上がってしまったら、次のBCのように、「や・かな」「や・けり」の並存しない俳句に直してください。
B 睡蓮や雨を喜ぶ女の子 (凡茶)
C 木に登りヨットの恋を眺めけり (凡茶)
@Aより、BCの方がグーンとよくなったでしょう?
ところで、「や・かな」の併用された俳句の例は、実際に極めて乏しいのですが、「や・けり」を併用した俳句は全くないわけではありません。
例えば、次の名句では「や」と「けり」とが併用されています。
降る雪や明治は遠くなりにけり (中村草田男)
「や」と「かな」の後に続く余韻が、ともにジワーッと広がるようなものであるのに対し、「けり」の余韻はスーッと消え入るような感じがあるので、「や・かな」ほど「や・けり」は気にならないのかもしれません。
しかし、「や・けり」の俳句が、草田男の句のような名句になることは極めて稀です。
大概は、上のAのような失敗作になります。
初心者の方は、「切れ字がわかった!」という自信が持てるまで、「や・けり」の俳句は避けた方が良いでしょう。
俳人として十分に成長し、自然にできた句に「や」と「けり」が併存していて、実際に何度か読み返してもそれが気にならない場合にのみ、「や・けり」の俳句を自分の作品として認めてやると良いでしょう。
≪おすすめ・俳句の本≫
新版20週俳句入門 藤田湘子著
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■ どこに出しても恥ずかしくない俳句を詠めるようになる本です
昭和63年に出された旧版『20週俳句入門』があまりにも優れた俳句の指導書であったため、平成22年に改めて出版されたのが、この『新版20週俳句入門』です。
この本は、
〔型・その1〕 季語(名詞)や/中七/名詞
〔型・その2〕 上五/〜や/季語(名詞)
〔型・その3〕 上五/中七/季語(名詞)かな
〔型・その4〕 季語/中七/動詞+けり
の4つの型を、俳句を上達させる基本の型として、徹底的に読者に指導してくれます。
これらをしっかり身につけると、どこに出しても恥ずかしくない俳句を詠めるようになるでしょう。
王道の俳句を目指す人も、型にとらわれない斬新な俳句を目指す人も、一度は読んでおきたい名著です。
俳句の宇宙 長谷川櫂著
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■ 俳句は深くて、面白いなあ… 心からそう思えた本でした!
この章を読み、俳句の「切れ」を「間」と捉え、その「間」をじっくり味わおうとするようになってから、既に目にしていた名句が、それまでとは違って見えてくるようになりました。
また、第七章「宇宙について」も、面白くてあっという間に読んでしまいました。
この章で、「造化」というものに関する著者の考え方を読んでから、芭蕉の時代の句に接する際は、その句が生み出される場としての「造化」というものを読み取ってみようと意識するようになりました。
もちろん、私ごときが読み取ろうと思って読み取れるような浅いものではないのですが…
とにかくこの本は、
「自分が足を踏み入れた俳句の世界は、どこまでも深いんだなあ。そして、深みに潜れば潜るほど、新しい面白みに接することができるんだなあ… 」
そんな気持ちにさせてくれる一冊でした。
俳句の作り方 〜初心者入門と季語・切れ字の使い方〜
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