俳句に切れ字が用いられるわけ

 俳句の切れ・切れ字のページでは、季語と定型の他に俳句にはもうひとつ欠かせない要素があり、それは、切れ・切れ字であると述べました。

 また、俳句が俳句として成立するには、どこかに「切れている」部分が必要であり、初学の方は、切れの見当たらない俳句を作らぬよう心がけてくださいともアドバイスさせてきただきました。

 このページでは、なぜ俳句に切れ字が用いられるようになったのか、その歴史的経緯を説明したいと思います。

● “一本立ち”が求められた発句

 なぜ俳句は「有季定型」なのか?のページにおいて、現代の俳句の直接の祖先は、俳諧の連歌の発句であるということを書きました。

 俳諧の連歌とは、誰かが五・七・五音の句(長句)を詠み、別の誰かがその句の内容を踏まえて七・七音の句(短句)を付け、次に、また別の誰かが、五・七・五音の句を付けるということをくり返す文芸です。

 この俳諧の連歌の第一句目を発句といい、発句には、時候の挨拶がわりにその時々の季語を入れるのが約束でした。

 この季語を入れて詠んだ「俳諧の連歌の発句」こそが、現代の俳句のルーツです。

 俳諧の連歌において、二句目以降の句は、前の句とあわせて読んで真価が発揮されるように作ればよかったのですが、前句の無い発句だけは、それだけで一つの作品として成り立つように作ることが強く求められました。

 つまり、連歌の看板となる発句だけは、一句のみで作品として独立し、かつ完結し得るように詠まなければなりませんでした。

 よって、季語が入っていることだけではなく、句のどこかが切れていて、二句目に頼らない“一本立ち”した形をしていることも、発句が発句として認められるための必要条件とされたのです。

 次は、『おくの細道』の旅に出た松尾芭蕉が、加賀の山中温泉で、弟子の河合曾良(かわい・そら)、地元の俳人立花北枝(たちばな・ほくし)とともに詠んだ俳諧の連歌の冒頭の四句です。

 これを見ると、同じ長句でも、北枝の詠んだ発句は切れ字「かな」でしっかり切れているのに対し、芭蕉の第三句目は切れている場所がありません。

 北枝の発句は、それだけで独立・完結した作品に仕上がっていますが、芭蕉の第三句は、前後と合わせてはじめて光るように工夫されています。

  発句
  馬かりてつばめ追ひゆくわかれかな (北枝)

  脇(二句目)
  花野みだるゝ山の曲がりめ (曾良)

  第三句
  月よしと相撲に袴踏みぬぎて (芭蕉)
      袴=はかま。

  第四句
  鞘ばしりしをやがてとめけり (北枝)
      鞘ばしり=刀が鞘(さや)から自然に抜け出ること。
      やがて=すぐに。

 私は、「俳諧の連歌の発句」の子孫である俳句は、どこかを切るようにすることが、本来の詠み方であると考えています。

 ゆえにまだ初心者の読者には、“原則的には俳句は切るもの”だと思っておいてほしいのです。

 私も初学の頃は、「紅葉の候、皆様におかれましてはますますご健勝のこととお喜び申し上げます。」のような手紙の時候の挨拶文が、本文から独立しているのと同じことなんだろうと納得し、努めて切ることを意識して俳句を詠んでいました。


● 切れの無い名句

 ここまで読んで下さった読者の中には、「だったら、切れ・切字の無い俳句は邪道なのか?」という疑問を抱いた方も多いことでしょう。

 結論から言うと違います。

 私は、切れ・切字を用いないことで、用いた時よりも俳句の質が向上するならば、それもありだと考えます。

 例えば、以下の二句は「切らない」ことで成功した名句と言えましょう。

  ピストルがプールの硬き面にひびき (山口誓子)
      面=「も」と読む。

  脱ぎ捨てし外套の肩なほ怒り (福永耕二)
      外套=がいとう。オーバーコートのこと。

 一句目は、句末の「ひびき」を「ひびく」という終止形に変えて切ってしまったら、スタートを切ったあとのスイマーたちが上げる水しぶきや、観覧席のワーワーとした歓声を、生き生きとは感じられなくなってしまいます。

 二句目は、「なほ怒り」と句末を連用形にしたことで、昂ぶったままさめやらぬ感情がなんともリアルに伝わっています。

 読者の皆様は、“原則的には俳句は切るものだが、切らないことで佳句になることもある”と捉えて、今後の句作に励んで下さい。



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 俳句には、読者の心に響く美しい形というものがいくつか存在します。

 例えば、次の二句は、上五の名詞で一旦切り、座五の「けり」でも句末を切る形をしています。

  ●月天心貧しき町を通りけり  蕪村
  ●赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり  正岡子規

 次の二句は、形容詞の終止形で中七の後ろを切り、座五に名詞を据える形をしています。

  ●五月雨をあつめて早し最上川  芭蕉
  ●鐘ひとつ売れぬ日はなし江戸の春  其角

 このテキストは、このような俳句の美しい形を、読者の皆様に習得していただくことを目的としています。

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posted by 凡茶 at 17:41 | Comment(0) | 俳句における切れ字の使い方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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