あるいは「俳句はつかず、はなれずで」などというアドバイスを受けるようになります。
つきすぎ(即き過ぎ)とは、季語と別の言葉との取り合わせが、誰でも思いつきそうな在り来たりなものであるという意味です。
はなれすぎ(離れ過ぎ)とは、季語と取り合わせた言葉の間の距離感が大きすぎて響き合うところが全くなく、趣きが感じられないという意味です。
ここでは、「つきすぎ」、「はなれすぎ」ということについて述べてみたいと思います。
≪つきすぎ(即き過ぎ)≫
俳句を初めて間もない頃、大学の句会で次のような俳句を投句しました。
星冴ゆる風呂屋帰りの味噌ラーメン
星冴ゆ=冬の季語。寒さのため、星の輝きまでもが凍りつきそうなさま。
しかし、参加したメンバーは誰一人としてこの句を採っては(佳句として選んでは)くれませんでした。
冬空の凍える星と、風呂上がりに食べる温かい味噌ラーメンの取り合わせが、「つきすぎ」なのだと、皆さんがおっしゃいました。
この種の取り合わせは、誰しもが思いつく在り来たりな取り合わせで、こういう俳句を見せられても、何の感動も覚えないと言ういうわけです。
私も初学者なりに一生懸命作った一句だったので、あまりの低評価にショックを受けましたが、これ以来、季語と別の言葉を取り合わせる際は「つきすぎ」にならぬよう、十分注意するようになりました。
それから何年か経った後、別の句会で次のような句を投句しました。
桜湯や初めて結ひし日本髪
桜湯=塩漬けにした桜の花を入れた湯。
この句に関しては、かなり自信を持って投句し、実際に句会でも何人かの方が採って下さいました。
しかし、句会の先生はこの句を採ってはくれませんでした。
選評の際、なぜこの句を採って下さらなかったのか先生に尋ねると、晴れの席で飲まれる「桜湯」という季語と、晴れの席で女性が結う「日本髪」の取り合わせが、「つきすぎ」なのだと言うのです。
「なるほど…」いやはや俳句とは奥深く、手強いものです。
家に帰り、私はこの句を何とか一人前の句に成長させようと次のように改めました。
初めての日本髪解く梅月夜 (凡茶)
そして、この句を会誌に投句すると、今度は先生からも高く評価していただき、私の代表作となりました。
「つかず、はなれず」の丁度よい取り合わせを見つけられたようです。
≪はなれすぎ(離れ過ぎ)≫
俳句を初めて二,三年経った頃、「古都の夕雨(ゆうさめ)田に畑に」という七五調のフレーズが頭に浮かび、これになんとかして季語を取り合わせて一句に仕立てようと、試行錯誤したことがあります。
そして、私は次のような俳句を完成させ、句会に出しました。
猪や古都の夕雨田に畑に
猪=いのしし。秋の季語。
結果は大失敗で、誰もこの句を採ってはくれませんでした。
選評の際、皆さんに感想を伺うと、「古都の夕雨田に畑に」の中七・座五は良いが、それと「猪」が「はなれすぎ」で、趣を感じないとのことでした。
二物衝撃の効果を狙い過ぎ、あまりに距離感のある季語を取り合わせてしまったようです。
数ヵ月後、私は、次のように句を改良して、会誌に投句し、今度は無事に掲載されました。
紙雛や古都の夕雨田に畑に (凡茶)
紙雛=紙で作ったお雛(ひな)さま。
「紙雛」という「つかず、はなれず」の良い季語が見つかり、私のお気に入りの一句となりました。
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例えば、次の二句は、上五の名詞で一旦切り、座五の「けり」でも句末を切る形をしています。
●月天心貧しき町を通りけり 蕪村
●赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり 正岡子規
次の二句は、形容詞の終止形で中七の後ろを切り、座五に名詞を据える形をしています。
●五月雨をあつめて早し最上川 芭蕉
●鐘ひとつ売れぬ日はなし江戸の春 其角
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